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なぜここに残るのか

更新日:2月15日


窓から見える屋根の雪と大と青空
窓から見える屋根の雪と大と青空

窓の向こうに、

春の光が降り注いでいる。


雪は確実に溶け、

屋根の白は日ごとに薄くなる。


朝夕の光は長くなり、

空は澄み、

季節は迷いなく移ろう。


町は静かだ。


年々、人影は減り、

家も減っていく。


商店街は消え、

残った店は一つだけ。


道路を通るのは車ばかり。

歩く人の姿はない。


消滅の可能性が高い町。

そんな言葉も、もはや特別ではない。


それでも私は、

ここにいる。


なぜだろう。


便利だからではない。

賑やかだからでもない。

経済的合理性があるわけでもない。


ここには、

時間がある。


山の輪郭が毎日変わることを知っている。

雪の溶け方に春の気配を感じる。

朝の光で季節を測る。


私は、

この町の速度で呼吸している。


人が減っていくことは寂しい。

だが自然は増えていく。


家が減れば、

草が生え、

鳥が戻り、

風が通る。


町は衰退しているのかもしれない。

だが同時に、

自然へ還っている。


私はそれを、

悪いことだと思っていない。


子供の頃の記憶がある。

賑わっていた通り。

誰かが必ず歩いていた道。


その記憶は、

ここにしかない。


それは失われつつあるが、

完全には消えていない。


私がここに残るのは、

守るためではない。


抗うためでもない。


ただ、

この場所で生きるという選択を、

自分でしているからだ。


都会に行けば、

効率も情報も刺激もあるだろう。


だがここには、

余白がある。


考える時間がある。

山を眺める時間がある。

母と買い物に行く時間がある。


私は、

速さよりも、

深さを選んでいる。


この町がどうなるかは分からない。


だが、

ここには四季がある。

空がある。

記憶がある。


そして、

まだ生きていける土台がある。


だから私は、

ここに残る。


春の光は、

静かに、

それを肯定しているように思える。



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